「ベトナムに営業したい」と言っても、ハノイとホーチミンでは別の国と思うくらい違う。意思決定の構造、商談スピード、人脈の築き方——全部異なる。1 本の営業台本で 2 都市を攻めると、どちらでも刺さらない中途半端な結果になる。
ハノイ(北部)— 政府系・国有企業中心の意思決定
ハノイはベトナムの首都であり、政治・行政の中枢だ。国家機関、国有企業、省庁系研究機関が集中している。ベトナム全体の GDP に占める国有企業の比率は約 29%(GSO 2024)だが、ハノイの主要取引先の 6 割以上は政府系または準公営の組織だと JETRO 現地レポートは指摘する。
意思決定はトップダウンで、かつ稟議層が厚い。課長レベルが「いい」と言っても、局長→副大臣→大臣補佐と承認を積み重ねるケースが珍しくない。商談の平均クロージングは 5 ヶ月以上かかると見るのが現実的だ。
関係構築(ベトナム語で 「quan hệ」)を最優先にする文化が強い。初回訪問はプレゼンより「顔合わせ」として機能させる。名刺・資料・提案書は全てフォーマルに整え、誤字脱字は信頼を一気に崩す。
主要産業は重工業・防衛・IT インフラ・農業機械・電力。Hanoi では VCCI(ベトナム商工会議所)のネットワークが入り口になりやすい。
ホーチミン(南部)— 民間活発・スピード重視の経済中心
ホーチミン市の GDP はベトナム全体の約 22% を占め、民間セクターへの依存度は 47% に達する(2024 年ホーチミン市統計局)。外資系企業が最も多く集積するエリアでもあり、製造業・小売・フィンテック・eコマースが主役だ。
商談スピードはハノイと別次元に速い。初回ミーティングから 2〜3 週間以内に「やる/やらない」の判断が出ることも多い。民間オーナー企業の場合、意思決定者が社長 1 人なので、社長に直接アクセスできれば一気に進む。
南部は歴史的に中国系ベトナム人(Hoa 族)と旧南ベトナム系の商人文化が根付いており、プラグマティックだ。「これで儲かるか?」という実利判断が最優先で、長い挨拶や格式張った資料よりも、具体的なROI の数字が刺さる。
Di An、Binh Duong、Long An といった周辺工業団地を含めると、ホーチミン広域圏の工場数は 8,000 棟を超える。製造業サプライヤー向けに営業するなら、まずここを押さえるのが定石だ。
意思決定スピードと商談スタイルの違い
2 都市の違いを数字で並べると、判断軸が見えやすくなる。
| 項目 | ハノイ(北部) | ホーチミン(南部) |
|---|---|---|
| 主な取引先 | 国有企業・政府系・SOE | 民間オーナー企業・外資系 |
| 平均クロージング期間 | 5〜8 ヶ月 | 1〜3 ヶ月 |
| 稟議層数 | 3〜5 層 | 1〜2 層 |
| 初回商談の目的 | 関係構築(顔合わせ) | ROI と実績確認 |
| 重視する資料 | 公式レター・証明書類 | 数字入り事例・比較表 |
| 接待文化 | ビア・ホイ(路上ビール)+ 席順あり | レストラン・カジュアルOK |
| 英語対応 | 英語対応は限定的、ベトナム語優位 | 英語対応ビジネスパーソン多い |
ハノイで「スピード感が大事です」と言っても相手は動かない。ホーチミンで「まずは関係を」と言うと「時間の無駄」と思われる可能性がある。
業種別 ハノイ vs ホーチミン 優先順マトリクス
業種によってどちらの都市を先に攻めるべきかが変わる。下表は JCCI(日本商工会議所ベトナム)メンバー企業へのヒアリングと JETRO ホーチミン事務所レポート(2024)をもとに整理した。
| 業種 | 推奨先 | 理由 |
|---|---|---|
| IT・SaaS・業務システム | ホーチミン ◎ / ハノイ ○ | 民間企業のデジタル投資がホーチミン集中 |
| 重工業・インフラ設備 | ハノイ ◎ / Hai Phong ○ | 国有企業・港湾・電力会社が発注元 |
| 製造サプライヤー(部品・素材) | ホーチミン広域圏 ◎ | Binh Duong / Long An に工場密集 |
| 人材・BPO サービス | ホーチミン ◎ | 外資コールセンター・バックオフィス集中 |
| 農業・食品加工 | ハノイ ○ / 地方都市 | 農業省・FAO 連携はハノイ経由 |
| 観光・ホスピタリティ | Da Nang / ホーチミン | 国内観光の成長軸は中部〜南部 |
| 金融・保険 | ホーチミン ◎ | ベトナム証券取引所・民間銀行本店が集中 |
| 公共インフラ・スマートシティ | ハノイ ◎ | 政府DX 予算の 63% が首都圏向け |
「どちらでも売れる」は幻想だ。まず業種×都市で勝率の高い組み合わせを選ぶことが、コスト最小で受注を積み上げる唯一の道だ。
言語と人脈 — 北は標準語+正式、南は方言+柔軟
ベトナム語は南北で発音が大きく異なる。ハノイの標準語(北部方言)は政府・メディアで使われる公式言語だ。ホーチミンの南部方言は音調が少なく、外国人には少し聞き取りやすいと言われる。
問題はネイティブ営業スタッフを採用するとき。北部出身者がホーチミンで営業すると「よそ者感」が出ることがある。逆も同様だ。現地のビジネスコミュニティは想像以上に狭く、「あの人、北から来たんだって」という噂はすぐ広がる。
人脈構築の主要ルートも違う。ハノイは VCCI 主催の政府系イベント、工業省のセミナーが入り口になる。ホーチミンは JCCI(日本商工会議所)の定例会、EuroCham のワーキンググループ、スタートアップ系カンファレンスが有効だ。
英語力はホーチミンの若手ビジネスパーソンの方が平均的に高い。ハノイでは通訳を想定して商談設計した方が安全だ。
展示会・商談イベントの違い
展示会の規模と性質も 2 都市で異なる。ハノイでは国際見本市・国際交流センター(VEFAC)が大型 B2B 展示会の会場だ。政府系機関が後援するイベントが多く、ブース出展には事前の公式申請が必要なケースがある。
ホーチミンでは Saigon Exhibition & Convention Center(SECC)が最大会場で、製造業・食品・フィンテック系の大規模展示会が年 50 本以上開催される。来場者の属性は民間オーナーと外資バイヤーが中心だ。
JETRO が主催する「Japan IT Week」「Japan 食品 Exhibition」はホーチミン SECC 開催が多い。日本企業がベトナム市場に入る場合、まず SECC での展示会出展から始めるケースが多い。
一方、インフラ・建設・公共調達系は「Vietnam Expo」(ハノイ・Hanoi National Convention Center)が定番だ。この展示会は政府バイヤーが多数来場し、入札書類を集める場としても機能する。
営業組織の最適化 — 2 都市並走 vs 片方集中
「ハノイとホーチミン、両方やりたい」という日本企業は多い。だが現地法人なしで 2 都市同時展開すると、コストが倍になるわりに成果が半分になることが多い。
現実的な選択肢は 3 つだ。
- 片方集中フェーズ 1:業種マトリクスで勝率が高い 1 都市に 12 ヶ月集中。最初の 3 件の受注を作る
- パートナー経由 2 都市カバー:ハノイとホーチミンそれぞれに現地代理店を 1 社立てる。ハンズオンでない分コントロールは弱いが、固定費がゼロに近い
- ホーチミン拠点 + ハノイ常駐担当:拠点はホーチミンに置き、ハノイ案件専任の現地担当者を 1 名雇用する。月 3〜4 回のハノイ出張でフォロー。ハノイは「関係維持コスト」が高いため、訪問頻度の維持が鍵だ
海外セールスくんのモデルは「ネイティブ現地スタッフ + 日本側 PM」の分業構造だ。ハノイ担当とホーチミン担当で別のスタッフをアサインし、それぞれのローカル人脈を使う。2 都市並走でも固定費を抑えられるのは、専属雇用ではなく成果報酬ベースの構造になっているからだ。
まとめ — まず 1 都市で勝ってから広げる
ハノイとホーチミンは、同じベトナムでも意思決定の構造・商談スピード・人脈ルートが根本から異なる。業種に合った 1 都市で最初の受注を作り、その実績をレバレッジにして 2 都市目に展開する。それが最も再現性の高い進め方だ。
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